賽の河原

少し横になるわ

イキ丸

中越しに網戸を閉じて台所に向かい棚の包丁を抜く。蛇口を捻って刃を濡らす。全てが急速に収束していく感覚。脳裏がパチパチと冷たく弾ける。この感覚はミサイルの警報に脅された時とそれからあの馬鹿でかい地震の時に味わって以来だ。心臓は驚くほど静かだ。誰かの計画通りかってくらいの驚くべき迅速さで全てが進行していく。

下の階のドタドタという物音が大きくなる。外では雨が降り出した。よく聞こえる。

玄関の電気をつけて濡れたままの包丁を握りしめる。

夕方に切った肉の脂がまだこびりついている。

折良く階段をかけのぼる音。軽くて運動不足の足音。

深呼吸をしてなるだけ力を抜いてしかし大きく鋭く何度か包丁を振る。びゅっ。実際には突くんだが。

 

それを妄想に留めたことで俺は毎晩のように下の住人から嫌がらせを受け続けている。